株式会社アイエスエイプラン 執行役員 HR & Strategy
坂爪 昭
私たちは改善を行う仕事も行っています
アイエスエイプランの仕事では、通常のシステム開発以外に運用改善コンサルティングというものも行っています。
運用改善コンサルタント-Service(アイエスエイプラン)
https://isa-plan.jp/service/consultant/
ITシステムを開発すると運用保守・維持というフェーズ(工程)にプロジェクトは突入していきます。そのフェーズでは、開発で対応しきれなかった例外事象や発生してしまった不具合の対応などを行っていきますが、これがなかなか予定できないもので企業の予算も圧迫していきがちです。
そこで<クライアントの本質的な課題の解決を行う>をミッションとするアイエスエイプランでは、企業の運用保守作業にかかる余分なIT予算を正しいかたちに直すことを実施しています。システムを維持・向上するために必要な作業や体制を蓄積させたデータから最適なかたちに見直すことで本来あるべき姿に企業の情報システム部門を導くことをサービスとしています。
現状維持バイアスを構成する「授かり効果」と「損失回避」
上記のような「改善」を基本方針とする仕事をしていると必ず「障壁」となるものに<現状維持バイアス(status quo bias)>というものがあります。
<現状維持バイアス>とは、本人に強い動機がない場合に、変化に対する漠然とした恐れから「今のままでいいか」と考えてしまうバイアス(考えの偏り)のことです。
「作業効率があがるのは分かっているけど、新しいツールは覚えるのが大変!」とか「作業をたくさん実施することによって努力のあとを実感するのが好き!」というような風景を見たことはありませんか?これが現状維持バイアスから起こる考えの偏りだったりします。確かに何かが変化した結果、どこか見知らぬ方向へ行くことに不安を覚えますね。
この不安を形成する現状維持バイアスは主に2つの構成要素からなると言われています。
1つめは「授かり効果(endowment effect)」です。
これは、自分の持っているものを高く評価し、手放したくないと考えることであり、自分が既に持っているものを高く評価してしまうのは、それを失うことによる損失を強く意識し過ぎてしまうからであると言われています。
John H.Kagel,and Alvin E.Roth(1995)※1では、自分が持っているものを失うときは、手に入れるときの4~7倍の価値を感じるという結果を表しており、いかに既存のものを手放すことが難しいかを表していることになります。
(※1) John H.Kagel,and Alvin E.Roth(1995) “The Handbook of Experimental Economics”,Princeton Univ. Press
もう1つは、「損失回避(loss aversion)」です。
人間は不確実な状況のもとでは得をする可能性よりも、確実な損失の回避を重視する傾向にあるということです。
Kahneman Daniel, and Amos Tversky(1979)※2によって提唱された<プロスペクト理論(Prospect Theory)>では、以下のような2つの選択肢を選ばせる実験が行われました。
選択肢A:100万円が無条件で手に入る
選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない
多くの人が失敗をした場合の損失ばかりが気になってしまい、選択肢Aを選んでしまいます。これによって不確実だけれども得られるものの期待値がよほど大きい場合でないと、人は新しい方向へ動きづらいということになっています。
(※2) Kahneman Daniel, and Amos Tversky(1979)”Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk”, Econometrica,
カーネマンの論文については以下の書籍が読みやすいのでオススメです。
D.カーネマン,村井章子訳(2014)『ファスト&スロー 上・下』(早川書房)
https://www.amazon.co.jp/dp/4150504105/
これらを踏まえて
自分がプロジェクト改善を任された際に、上記のような<現状維持バイアス>にどう立ち向かったらよいでしょうか。
大切なことは意外に以下のようなシンプルな2つしかないと言われています。
1.誰もがバイアスに陥る可能性があることを先ずは自覚する
2.組織変革を進める立場のときは、変革に伴うリスクより現状維持のデメリットを説く
残念ながら、変化に伴うリスクのない変革はありません。現状維持からは「機会損失」につながることが多いのが事実です。
現状維持バイアスの存在を自覚し、よりよい選択やよりよい将来が描けるように心がけることが先ず一歩だったりもしますので、社内での会話の中で、「それって現状維持バイアスじゃないですか?」の一言を先ず利用してみましょう。